受賞の知らせを受けたのは、銀河書道作品展のお手伝いをしている時でした。佐伯司朗先生、方舟先生から封書をいただき、「中を確認するように」とのことでしたので拝見いたしました。その瞬間、「内閣総理大臣奨励賞」という文字が目に飛び込んできて、あまりの重みに恐れ多くなり、思わずすぐに書類を閉じてしまいました。その時は驚きのあまり、「ありがとうございす」とお伝えするのが精一杯で、嬉しいという感情よりも前に、「大変なことになってしまった」という戸惑いが勝っていたのが本音です。
その後、驚きが冷めないまま古川司源先生、司邦先生、阿部新邦先生にご報告に伺いましたが、あまりの衝撃に残念ながら当時の記憶がほとんど残っておりません。母にも連絡いたしましたが、母も「えらいことになった」とただ焦るばかりで、親子揃って事の大きさにただただ圧倒されるばかりでした。
時間が経ち、現代書道研究所の諸先生方から温かいお言葉を頂くにつれて、少しずつ落ち着きを取り戻し、「本当に喜ばしいことなのだ」と受賞の重みと喜びをじんわりと実感する事ができました。
今回は、『石臺孝経』を題材に選びました。本作は「日本書展」で拝見する機会も多く、気持ちよさそうな波磔に憧れはあったものの、自分にとっては簡単には手を出せない大作だと思っておりました。
前回展が終わった後、師匠の古川司邦先生と次回作の相談をしていた際、中国の西安碑林博物館にある現物は、四面の石碑が方柱状になっており、序文・本文だけでなく、最後には皇帝への上表文、皇帝からの批答、建碑に参画した人々の名前までが刻まれていることを知りました。先生から「この『本当の立ち姿』を再現できたら面白そう」という、壮大なご提案をいただきました。
司邦先生はいつも、驚くようなアイデアをくださるので、その場ではすぐに決心がつかなかったものの、「面白そうだから挑戦してみよう」というワクワク感が勝り、先生のご提案に全力で応えてみようと決意した次第です。
苦労した点は、大きく二つございます。
まずは、紙・墨・筆の選定です。隷書だけではなく楷書や行書の箇所もあったことや、紙と墨の組み合わせ次第で、文字が沈んで見えたり、浮き上がって見えたりするという奥深さを知り、着地点を見つけるまで苦心しました。また、初めて「縦もの」の作品に挑戦したので、大きな紙の扱いそのものにも苦労しました。
次に、制作時間の捻出です。全体の設計を終え、手本を並べ替え、文字の研究を重ねていざ練習稿を書き始めたところ、想像を遥かに超える時間がかかることに気が付きました。慌ててカレンダーを見つめ、作品制作に充てられる日数と時間を計算したときは、あまりの厳しさに絶望を覚えたほどです。
いざ本番の清書に入る頃には、まさに時間との戦いとなり、「今、自分や家族に病人が出たら今回は諦めるしかない」と、祈るような気持ちで健康管理に細心の注意を払いました。家族に負担をかけつつ、買い物に出かけるわずか一、二時間すら惜しまれるような、ギリギリの毎日を過ごしました。
五歳の頃です。今もお世話になっている古川書道教室に通い始めました。小学校二年生から毎年「銀河書道作品展」に出品し、その作品制作が特に好きだったことを覚えています。当時、中島司有先生や師匠である古川司邦先生の字が本当に美しく、憧れ、目標としておりました。それと同時に、なかなか先生方のようには書けないという、悔しい気持ちもあったように記憶しています。
その後、大学生の頃、他への興味が勝ってしまい、教室から足が遠のき、お休みしてしまいました。
時が経ち、娘の小学校生活も落ち着いた頃、「そろそろ一生続けられる趣味を持ちたい」と思い立ち、古川先生の教室に再入会させていただきました。大人になった今、子供の頃とは違って、字形の崩れも「味」や「次は良くなる」などと気楽に受け入れられるようになり、現在は楽しく書道と向き合えているように思います。
私が感じる書道の魅力は、大きく三つございます。
一つ目は、年齢問わず楽しめ、定年も引退も無いところです。体力が落ちたとしても、それまで重ねてきた知識や鍛錬、人生の経験が、文字や作品全体の表現に奥行きをもたらし、よりよい作品が仕上がるように思います。
二つ目は、歴史に触れる喜びです。古典の臨書をしていると、それを書いた人が生きた時代背景や、その時の心情に興味が湧いてきます。「この時この人急いでいたのかな?」「几帳面な人だったのだろうな」「筆が痛んできたんじゃない?」などと想像を膨らませながら臨書する時間は、本当に楽しいものです。
三つ目は、作品が完成した時の達成感です。私はジグソーパズルも好きなのですが、日本書展などの作品展に出品する大きな臨書作品を制作しているときは、ジグソーパズルに通じるものを強く感じます。コツコツと少しずつ積み重ね、最後の1ピース(書作品であれば落款)に向かうワクワク感や、完成した時の爽快感は格別です。パズルが好きだから書道が好きなのか、書道が好きだからジグソーパズルが好きなのかはわかりませんが、どちらも私にとってかけがえのない大切な時間です。
この度は『内閣総理大臣奨励賞』という身に余る賞を賜り、誠にありがとうございました。佐伯司朗先生、佐伯方舟先生をはじめ、現代書道研究所の先生方に深く感謝申し上げます。
学生時代の私を根気強く導いてくださり、また書道を再開した際にも快く迎えてくださった古川司源先生、古川司邦先生には感謝の気持ちでいっぱいです。今このように過分な評価を頂いているのは、子供の頃に築いて頂いた下地があったからこそと、改めて有難さをかみしめております。
また、社中の皆様の熱心に書と向き合うお姿には、本当に頭が下がる思いでございます。これまで先輩方に教えていただいたことを大切にしながら、これからは少しでも先生方のお手伝いができるよう、微力ながら頑張りたいと思います。
かつて子供のころ先生方に温かく育てていただいたように、今度は私がこれからを担う子供たちの指導や、社中を支える一員となれるよう努力いたします。先生方が築き上げてこられた書への情熱や教え、そしてこの温かい社中の伝統を大切に守りながら、皆様と共に切磋琢磨してまいりたいと存じます。
そして今後は、現代書道研究所のさらなるご発展のため、お役に立てるよう精一杯精進してまいります。佐伯司朗先生、佐伯方舟先生、古川司源先生、古川司邦先生、現代書道研究所の諸先生方、今後ともご指導ご鞭撻のほど、何卒よろしくお願い申し上げます。
受賞の知らせは、佐伯司朗先生から直接お伝えいただきました。知らせを受けた瞬間は、嬉しさよりも驚きの方が大きく、「なぜ自分が選ばれたのだろう」という戸惑いの気持ちが先にありました。ここ数年、写経を多く取り組んでおり、久しぶりの篆書の作品だったため、作品制作の過程でとにかく原作の美しさや重厚さを書くのが大変で、ただ無心で手本と向き合えたことがかえって結果に結びついたのかと後から思いました。初めは、なかなか現実のこととして受け止めることができず、何日か経っても実感が湧かないほどでした。 後日、母や祖父母に電話で受賞の報告をしたところ、皆が「おめでとう」と喜んで祝福してくれました。事務局やお稽古の先生方からも「おめでとうございます」とたくさんお声を掛けていただき、その言葉を聞いたとき、これまで作品と向き合ってきた時間や努力を、自分だけでなく家族や一緒に働く先生方も一緒に喜んでくれているのだと感じ、とても嬉しく思いました。
今は受賞の重みを実感するようになり、受賞という大きな出来事を、自分一人のこととしてではなく、日頃から支えてくれている方々とともに喜べたことが、何よりも心に残っています。今回いただいた賞の重みを改めて感じるとともに、これまで支えてくださった先生方や家族への感謝の気持ちも、より一層強くなりました。
作品は「在昔篇」を書きました。清時代の能書家である楊沂孫が、小學(文字学)に関する考えを四言の詩にまとめたものです。
以前、「嵩陽觀紀」を書いた際に、石碑のお手本ならではの、どっしりとした重厚感のある線質を意識して制作しました。しかし、思うように筆を運ぶことができず、自分が表現したかった線の強さや深みを十分に出し切ることができませんでした。作品を振り返る中でも、納得のいかない部分が多く残り、自分の中では課題として強く心に残っていました。以前の「嵩陽觀紀」での経験を生かし、自分自身の課題と向き合いながら、前回よりも一歩でも成長した作品にしたいという気持ちで制作しました。
また、普段、私は子供たちにお稽古で指導をしています。指導者としてさまざまな書体の作品を書かなければなりません。子供の展覧会「銀河書道作品展」では篆隷楷行草の五体を指導しますので自分自身がさまざまな作品として向き合う経験を積みたいと感じたこともあり、この題材を選びました。
篆書らしい線の質と、画仙紙の裏側まで墨をしっかり通すことを重要視して書きました。表から見た美しさだけでなく、裏から見て、どの線も墨が通るように意識しました。そのため、一筆一筆をとにかくゆっくり書き、墨を多めに含ませました。ただ墨が多すぎると滲んでしまうため、清書前に半紙で試し書きをし、墨の濃さや量を調整するところが苦労しました。さらに、墨を裏まで通すには、筆の運び方や筆圧も大切だと感じました。何度も試行錯誤しながら、線の太さや筆を動かす速さを工夫し、また原作は石碑を元にした拓本なので、石に一画一画を刻むような気持ちで、書きました。ただし、力を入れすぎると線が硬くなってしまうため、力強さと自然な線の流れのバランスも苦労しました。書いては裏を確かめ、何回も何回もその作業を繰り返しました。
佐伯先生からは、左右の線のバランスや字形の左右対称などご指導いただきました。先生のアドバイスを生かしながら、線だけでなく、字形や作品全体のまとまりにも気をつけて制作しました。
小学4年生の時に、私の猫背を心配した母が、姿勢が良くなるようにと思い、近所の書道教室に通わせてくれました。 後から知ったのですが、昔、毎日書道展の刻字部の審査会員を務めていた先生の会で、当時の教材を読み返すと毎日展や練成会の記事が載っておりご縁を感じました。高校3年生まで、その教室に通い、進学先の國學院大学栃木短期大学の書道部に入り、佐伯司朗先生・佐伯方舟先生と出会いました。書道部で初めて「近代詩」を知り、当時、先輩方は毎日展の作品で音楽の歌詞を書いている姿を見て歌詞と書道を合わせたものがあるのかと、衝撃を受けました。2年生の時にいざ実際に書いてみると難しさを感じる場面もありましたが、これまでとは異なる視点から文字と向き合うことで、筆の運びや表現によってさまざまな姿を見せることに気づきました。そして何より自分の心情にあった詩や歌詞を選ぶことができ作品作りが楽しくなりました。
そして卒業後は現代書道研究所の事務局員として日々研鑽をつみながら、子供たちのお稽古を行っています。 高校生の頃から、書道はできる限り長く続けていきたいと思っていました。一方で、進学や就職を考える中で、好きなことを続けていくことは決して簡単ではないとも感じていました。そのような中で、佐伯先生・方舟先生にお声がけをいただき、書道を仕事にすることができれば、これからも書と関わり続けながら、学びを深めていけるのではないかと思い、この道を選びました。
実際に仕事を始めてからは、書を学ぶだけでなく、さまざまな年齢の子供たちに教える立場だからこそ得られる学びや気づきにも、たくさん出会うことができました。子どもたちが一生懸命に筆を動かす姿や、少しずつ成長していく姿に触れるたびに、私自身も励まされています。自分で書いているだけでは得られなかった経験を重ねられたことは、今の私にとって大きな財産です。
高校生の頃から続けたいと思っていた書道を今こうして仕事にできていること、とてもありがたく感じています。書と向き合い続けられる環境に恵まれ、子どもたちと一緒に学びながら成長できるこの仕事に携わることができて、本当に良かったです。
私にとって書道の魅力は、文字を通して人と人の心をつなぎ、そして想いを残せるところです。
私の祖父は耳が聞こえず、足も不自由なため、なかなか会うことができず、会えたとしても、ゆっくり言葉を交わすことは難しいです。ただ祖父は文字を書くことができるので、たまにハガキでやり取りをしています。今の私達が唯一とれるコミュニケーションです。直接話すことはできなくても、文字に想いを託すことで心を通わせられる。その経験から、文字には人の気持ちを届ける大きな力があるのだと感じました。祖父からのハガキは宝物です。
父は病気で亡くなりましたが、私は生前の父の字が好きでした。今でも、父が書いた銀河誌の漢字プリントを大切に残しています。そこに記された文字を見ると、当時の父の姿や、昔の思い出など過ごした時間がよみがえるように感じます。
こうした経験を通して、文字は単に意味を伝えるだけでなく、その人の想いや人柄、過ぎ去った時間までも残せるものだと考えるようになりました。だからこそ私は、文字と向き合い、一画一画に想いを込めることを大切にしています。
この度は『文部科学大臣奨励賞』という素晴らしい賞を賜り、誠にありがとうございました。今回、このような大きな賞をいただいたことで、これから同人として歩んでいくことへの責任の重さを改めて感じています。大変ありがたいことであると同時に、ここが一つの到達点ではなく、新たな出発点だという思いを強くしています。今回の受賞を励みに、これまで以上に一つ一つの作品と真摯に向き合い、自分自身を高めていきたいと思っています。
さらに、日々のお稽古では、子供たちの素直な感性や一生懸命に取り組む姿から、私自身もたくさんの力をもらっています。これからも、一人ひとりの成長を大切にしながら、文字を正しく、丁寧に書くことの大切さを伝えていきたいです。同時に文字を書く技術だけではなく、書道を通して培った経験がこれからの人生に生かされていくような指導をしていきたいと思っています。
また、現代書道研究所の先生方には日頃から気をかけていただき、優しく見守っていただいていることにも、改めて感謝申し上げます。展覧会に出品される各先生方の作品を拝見するたびに新たな発見があり、さまざまな表現に触れることで、自分自身の作品に向き合う上での学びと刺激をいただいています。日頃から多くの先生方の書に触れ、学ぶ機会をいただいていることにも、感謝しております。
そして佐伯司朗先生には、日々の作品に対するご指導はもちろんのこと、書道に関する専門的な知識や考え方についても多くを教えていただきました。また、方舟先生からは、書そのものに対する向き合い方だけでなく、お稽古での子供たちとの向き合い方や、教育に対する考え方についても学ばせていただいています。お二人から日々いただいているご指導は私にとってかけがえのない学びであり、今日まで歩んでくる上で大きな支えとなっています。改めて深く感謝申し上げます。先生方からいただいたご指導の一つ一つを大切にし、これからの自分の書や指導に生かしていきたいと思っています。
これからは、私自身も後進を導く立場としての責任を自覚し、先生方の背中を追いながら、少しでも近づけるよう日々精進してまいります。今回いただいた賞に恥じぬよう、書道に対する学びを一層深め、作品制作にも指導にも誠実に向き合っていきたいと思います。
今後とも変わらぬご指導、ご鞭撻を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。